【教職員リレーコラム『110周年から始めよう』第2回】学園を守り続ける、重い義務と誇らしい使命(小野展克)
大学は本当に恵まれている。110周年記念事業の担当をして、たびたびそんな思いを味わえた。110周年記念事業の一環として企画した「3大セミナー」のスタートは昨年5月に開かれた田中均元外務審議官の外交セミナーだった。
田中氏は、電撃的な小泉元首相の訪朝を実現した伝説の外交官。尖閣諸島問題をめぐって緊張した日中関係、TPP(環太平洋連携協定)の行方...。淡々とした口調が、徐々に熱を帯びる。現場を踏んだ外交官だからこそ語れる鋭い見識が示され、ときおりドキッとするような秘話も繰り出された。
セミナーの良い所は、生の表情や息遣いに触れることができる点だ。聴衆が熱心に聞き入る姿勢が、講師の気持ちをさらに盛り上げる。どれだけネットが発達しても、セミナーの魅力は色あせることがない。
田中氏をお招きできたのは本学の赤沢正人学長が元外交官で、田中氏の先輩だったご縁だ。ただ、それには大きな前提がある。大学という器が、人を駆り立てるのだ。若者の成長に一役買えれば―。そんな思いで、3大シンポジウムには多くの著名人が花小金井のキャンパスまで駆けつけてくれた。
「アベノミクス効果で企業は五重苦(円高、法人税高など)から解放されて、経営者は業績悪化の言い訳ができなくなりました。企業が生き残るにはニッチでも世界で通用する事業を持つ必要があります」
学生や教職員に多くの地域の方々...。富山和彦氏の刺激的な言葉に、カエツホールに集まった220人を超える聴衆が聞き入った。富山氏はダイエーやカネボウの再生に導いた事業再生のプロ。経済同友会の副代表幹事も務める日本を代表する経済人だ。
アベノミクスをテーマにした9月のシンポジウムには、その冨山氏に加え、安倍首相のブレインでもある本学の高橋洋一教授、小泉政権の郵政民営化を支えた跡田直澄教授、ボストンコンサルティング・パートナーの秋池玲子氏がパネラーとして参加。テレビや雑誌で活躍中の人気評論家、宮崎哲弥氏が司会を務め、刺激的な議論が展開された。
「これからの日本の未来を作れるのは中小企業家しかいません」。
株式会社ミナロを創業した緑川賢司氏。全日本製造業コマ大戦を主催し、中小企業の技術力を世界にアピールした緑川氏の言葉は聴衆に夢と勇気を与えた。12月に開かれた大学院エグゼクティブセミナーには、緑川氏に加えてボストン コンサルティング グループ前日本代表で早稲田大学大学院商学研究科教授の内田和成氏、ジャーナリストの嶌信彦氏が参加。一流のパネラーが繰り広げる議論に会場も活気づいた。
学生たちは、時に驚くほど怠惰で、痛々しいほどデリケートだ。ただ、ちょっとした出会いや学びで、驚くほど成長する。教職員に加えて、未来を担う若者に何を伝えたいという第一線で活躍する方々、地域の人々との触れ合いが加わり、ユニークな化学反応を引き起こす。
やはり、大学は素晴らしい。私は外の世界から大学に転じからこそ、その良さを深く感じる。嘉悦学園の歴史は110年を超えた。この先も、学園を守り続けることは、教職員に課せられた重い義務であり、誇らしい使命でもあると思う。